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ヲ印茉奈のの/だ/め語り
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君のほしいもの」ののだめver・・・と思っていたのになぜかターニャのお話。
リュカがとってもかわいそうです。

彼女にのぞむもの



「のだめ!今日はどうするの?」
 
レッスン後カフェで捕まえたのだめの隣にターニャは同席者の許可も得ずに座り込んだ。
「ターニャ」
にこやかに迎えたのだめに膨れた同席者―リュカとの温度差はいつも通りだ。全くしぶといわね、と内心呆れる。
のだめと千秋の間に入ろうなんて無駄なことだといつになれば理解するつもりなのだろうか。
 
「どうって何がですか?」
ターニャの問いかけにのだめは首を傾げて応えた。半ば予想していた答えにそれでもターニャは溜息を吐いた。
こう言うところがのだめの良いところと言えばそうなのだけれど。
「どうってチアキとは会わないの?」
「?先輩と?別に約束はしてないデスね~」
そりゃ会いたいデスケド~ぎゃは~、なんて頬を染めて両手で押さえる姿はとても年上には見えない。ターニャは再び息を吐く。
「・・・あんた今日誕生日でしょ」
だからカフェにのだめとリュカの姿を見かけた時に咄嗟に割って入ったのだ。
のだめもリュカも何も言う前に。そしてそれは間に合ったようだけれど。
当ののだめは目と口をポカンと開けてたっぷり3秒は固まった後、おもむろにポンと拳を掌に打ち付けた。
「ふぉ!そうでした!すっかり忘れてました」
あっけらかんと言い放つのだめにターニャは三度溜息を吐く。今度は特大だ。
この分では千秋も忘れているだろう。
 
のだめが失踪して千秋が身を持ち崩したのは記憶に新しい。あれからまだ二月と経っていない。
あの後、またブノワ家に呼ばれたのだめに着いていってそれからのだめの追試のために勉強を見てやったり自分の勉強をしたり。
それがふたりのバカンスの全てだ。
 
全く呆れてしまう。
別れの危機(あれは絶対そうだった)を乗り越えてお互いが音楽以外でも必要だと確認しあった恋人達がバカンスは仕事絡みの遠出に勉強。息抜きと言えば近所の公園にピクニック。
まあ多分夜にはたっぷり孔雀の羽根を広げたのだろうけど。いや割りと昼間にも。
けれど挙げ句の果てに誕生日をスルー。本人すら忘れている。
それがふたりのスタイルだと言ってしまえばそうなのだけれど。
 
ターニャは自分の眉間に皺が寄るのを止められない。
世話が掛かると良いながらも大事な友人であるのだめと千秋はターニャにとっても特別なふたりだと言える。
自分と黒木を引き合わせてくれたのもこのふたりだし、音楽に対する気持ちを思い出させてくれたのものだめだ。呆れることも多々あるが言ってしまえば憧れのカップルなのだ。
ポイントはちゃんと押さえて欲しいと思ってしまう。
 
(全くチアキったら。今日はのだめ失踪後初の締めポイントなのに!のだめを狙ってるやつは多いのよ!)
その証拠に、内心呟く声を体現したかのような光景が繰り広げられる。
嬉々としたリュカが今にもその手を握り締めかねない勢いでのだめの方に身を乗り出したのだ。
 
「ほんとにっ?じゃあチアキも忘れてるの?ヒドイね、僕ならのだめの誕生日絶対忘れないのに!」
カチンときた。
いつもなら少年の可愛い恋心だと微笑ましく思えるのになんだかやたらカンに障る。
ありがとうございますなんてにこやかに返事をするのだめだって。なにが「リュカは優しいですね」だか。
バカ。
 
「まあのだめだって毎年チアキの誕生日スルーしてるからおあいこよね」
頬杖をついてさくっとチャチャを入れるとリュカがぐっと詰まった。多分のだめはチアキをちゃんと祝ってあげてるのにとかなんとか続けるつもりだったのだろう。
何も知らない子供の意見だとターニャは思う。
 
「のだめ達は特別なことなんかしなくてもちゃんと繋がってるから~ラブラブなんデース。それに今の時期は新シーズンで先輩大変だから妻として陰から支えるんデス」
のだめはのだめでそんなリュカには気付かずに赤い頬に手を当ててくねくねと体を揺する。
そう。確かにバカンス明けの新シーズンに入ったオケを纏めるのは大変だろう。自分の勘を取り戻すのも。
「そうよね。一応、仕事を持ってる大人の男だもんねえ」
本心はまた少し違うところにある台詞は明らかな当て擦りだ。
案の定、リュカがムッとした視線を向けて来るが知った事じゃない。
大体のだめはもっと千秋に甘えるべきだ。普段奔放で傍若無人なくせに肝心なところでふっと引く。
そう言うところがターニャには堪らなくもどかしい。そしてそんなところを千秋が不安に思っているくせに何も言わないところも。
いくら音楽でわかりあっているとは言え、必要最低限の言葉は絶対に必要なのだ。
 
「ねえ、のだめ。じゃあ今日僕がお祝いするよ!ケーキでも買ってのだめの家にお邪魔していい?」
「リュカ・・・」
めげないリュカの台詞にのだめがほんの少し困った顔をしたのがわかった。
ほんとにリュカはわかっていない。
のだめにとって誕生日は―誕生日に限らずイベントごとは―千秋がいてこそ意味があることだ。
ひとりでいるならそれは普通の1日と変わらない。
世の恋人たちにとっても多少言えることだろうけれど、のだめに関していえば本当にそうなのだ。
だから、ターニャも千秋も漠然とした不安を感じるのだけれど。
 
「だめ」
割って入った声に今度こそリュカははっきりとした不満顔を向けた。
「なんでターニャが決めるんだよ!」
「だめよ、のだめ。今日はちゃんと千秋に連絡して誕生日だから祝ってってお願いしなさいよ」
リュカの声は無視してのだめの方に身を乗り出して言う。さっきのリュカみたいに。
ターニャのいやに真剣な顔にのだめは瞬く。そして笑う。
本当なら困惑顔をするような場面な筈なのに、無邪気とも言える顔で笑って見せる。
「だめですよー、先輩忙しいですもん。それにのだめ、別にそんなお祝いしてもらわなくっても良いデスシ・・・」
「だめ!」
軽く言うのだめに、ターニャはさらに詰め寄る。
その勢いにのだめは目を丸くして軽く背を逃がし、リュカも何か言おうとしたまま固まってしまう。
「だめ。ちゃんと言いなさい。それで、普段言えないおねだりなんかしなさいよ」
わかった?と駄目を押すと今度こそのだめは困り顔をした。
 
わかっている。これはターニャのわがままだ。
いくらのだめと千秋が大事な友人だと言っても誕生日にふたりがどう過ごすかなんてそんなのはふたりの勝手だ。他人が口を出すことじゃない。
だけど。
でも。
 
なぜだか今日だけはちゃんとふたりで過ごしてほしいと思う。
どちらかというと千秋のために。
 
「・・・あんたたち、バカンスだって仕事がらみや勉強だったでしょ。恋人同士のイベントくらいたまには楽しむべきだわ」
自分にもよくわからない理由を理解してもらうのは難しいだろう。
だから幾分かわかりやすい理由をつける。取ってつけたのは明らかだがのだめの口元が緩んだ。
「そですね、たまにはそーゆーのもいいかもデス」
じっとターニャの顔を見つめた後、のだめはぽつんと呟いてにっこりと笑った。
感覚が鋭いのだめは理性ではない何かでターニャの言わんとすることを理解したのかもしれない。それはそれで複雑だ。
「それがいいわ」
そんな素振りも見せずにターニャは頷く。受け入れられるとなんだか急に自分が果てしないお節介に思えてしてしまう。
わかっててやっといて何を今更、なのだけれど。
 
「じゃあのだめそろそろ行きマス!ヨーダに呼ばれてるんです」
どうします?と視線だけで問いかけてくるのだめにターニャは首を振って見せた。
「今日は練習室取ってるから・・・・のだめ、これプレゼント。わたしとヤスから」
「ふわお!ありがとございマス~!」
手渡したのはのだめもお気に入りの雑貨店の小袋。中身は黒木とふたりで見つけたコサージュだ。大振りでアンティークカジュアルな髪飾りにもなるもの。てんとう虫が着いていたからきっと気に入ると思って見た瞬間に手に取った。
「アパルトマンで渡せば良かったんだろうけどね。もしチアキのとこに行くなら困るし。チアキが来るんでもお邪魔したくないしね」
 
「僕もプレゼント!誕生日おめでとうのだめ!」
にんまり笑って言い訳めいたことを言うと遮るようにリュカが綺麗にラッピングされた薄い箱を突き出した。
形状からしてハンカチかなにかだろう。
この年代の少年にしてみれば無難なところだ。無難すぎてらしくないと言えばそうかもしれないがのだめの好みはわかりづらいしピアニストののだめならいつかステージで使うことがあるかもしれないといったところか。
「リュカも、ありがとデス」
両手で受け取って笑いかけたのだめにリュカは頬を染めて嬉しそうだ。
千秋より先にプレゼントを渡せたなんて喜んでいたりするんだろう。
 
「じゃあふたりともほんとにありがとございマシタ!また週明けに!」
そう。今日はラッキーなことに週末。
だからプレゼントの箱とテーブルに広げていた楽譜をレッスンバッグにしまいこんだのだめにもう一度念を押す。
「ちゃんとチアキに連絡すんのよ!」
「またねのだめ」
リュカに手を振り返し、ターニャの言葉には頷いてのだめは踵を返した。
シュトレーゼマンとのコンチェルト以来一躍有名になったのだめにはそこここから声が掛かる。
ひとつひとつ律儀に返すのだめの背中を残されたふたりは暫く黙って見つめていた。
 
 
「・・・なんで邪魔するのさ」
やがてわかりやすくヘソを曲げたリュカがターニャを睨みつける。背が伸びて身長は越されたと言ってもまだまだ子供だ。
ふんと鼻でせせら笑って向けられた不機嫌さを吹き飛ばす。
「・・・ガキ」
「なっ!」
「のだめ言ってたでしょ。約束はしてない、会えたら嬉しいって。そういうことよ」
「どういうことだよ!わかんないよ!」
「だからリュカはガキなのよ。・・・・恋人たちがどう過ごそうと外野には関係ないってこと」
外野に力を入れて言うとリュカはさらに膨れた。
「じゃあなんでターニャはのだめにチアキに連絡しろなんて言ったのさ!」
「わたしがそうしたかったからよ」
「なんだよそれ!」
「じゃあね。練習行くわ。またね」
「ちょっ・・・・!」
「・・・あ」
 
言うだけ言って立ち上がろうとして顔を上げると、まだのだめの姿が見えることに気付いて思わず声を上げた。
ちょうどレッスンバッグからケータイを取り出したところでその画面を見たのだめはぱぁっと花開くように笑った。
それだけでわかる。あれは千秋からのメールだ。
のだめはそのまま超絶技巧で素早くメールを打つと、弾けるように駈け出した。
溢れたラブがのだめを突き動かしている。
 
「よし、千秋えらい!」
「・・・千秋とは限らないじゃないか」
思わず小さくガッツポーズをしたターニャにリュカが異を唱えるけれど、不機嫌そうな顔は千秋からのメールで間違い無いとわかっている。ターニャはにんまり笑う。
「あの娘にあんな顔させることができるのは千秋だけよ。じゃーね、ほんとに行くわ」
「・・・・また来週」
ひらひらと手を振って練習室に向かいながら決めた。
 
今日・・・いや明日。
千秋を捕まえたら、思い出して偉かったと褒めてやろう。
きっとものすごく嫌な顔をするだろう。
何度も見たその顔を思い浮かべてほくそ笑みながらたどり着いた練習室で、まず最初にハッピーバースデー!を弾こうと思った。


end





ターニャ目線ってすごく好き。
リュカ・・・・ごめんねちあのだ至上主義な書き手で。かわいそうww

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読書・映画・音楽・お酒・料理
自己紹介:
ここはの/だ/め/カ/ン/タ/ー/ビ/レ、二次創作サイトです。
ちあのだメイン。
原作、出版社等など無関係です。

傾向と対策:のだめを偏愛・のだめ溺愛の千秋先輩を偏愛。

ブログタイトルの由来:茉奈の実家はオアシス大川から車で三十分なのだ。
あの道を、私は知っている。


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