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ヲ印茉奈のの/だ/め語り
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オペラ編、のだめリサイタル後。
もんもん千秋。

乾杯ベイビィ


のだめの親戚やら友人やらに写真を求められひっきりなしに話かけられていた状態から抜け出して、千秋は会場の壁際に避難した。
千秋に向かっていた好奇心は久しぶりに会う友人同士であるとか、お互いの親戚同士であるとか、または親戚のサイン攻撃から開放された本日の本当の主役に向かい始めて落ち着いたようだ。
本当は耐えられなくなってきた千秋の黒オーラに引いていたのかもしれなかったけれど。
 
写真撮影の間は緩めることを許されなかったネクタイを少し乱暴に緩める。ひとつ息をついて壁に凭れ掛かるとざっと会場を眺めながらワイングラスに口を付けた。
正面に掲げられた大げさな横断幕、談笑している人々は千秋自身もよく知る人々がほとんどで、懐かしい顔ぶれがそれぞれに旧交を暖めている。峰や真澄が由衣子や俊彦となにやら話していて真澄が憤慨しているのはリサイタルの後由衣子が言っていたことを蒸し返しているのだろうか。峰と俊彦はおかしそうに笑っていて初対面の癖にもう馴染んでいるのは流石と言うべきか。
千秋も初めて会うのだめの親戚は自分の母親や叔父とお辞儀をし合いなにやら盛り上がっていて、それは自分とのだめの結納だとかなんとかの話なんだろうと容易に想像がついてげんなりする。
 
そして見つけた今日の主役は千秋も見かけたことのあるピアノ科の同期のふたりと手を取り合ってぴょんぴょん飛び上がっていた。何か言われてはにかむように笑った顔はこの上無く嬉しそうでつられて頬が緩むのが分かる。
久しぶりの再会だから積もる話もあるだろう、ひっきりなしにしゃべって笑ってたまにあがる奇声もパリにいる時よりもパワーアップしているような気がする。
その姿を眺めている自分がどれだけ脂下がっているかなんて自覚しているから緩む口元を隠すためにまたワイングラスを持ち上げた。それでも視線は吸い寄せられるようにのだめから離れないのはもうどうしようもない。リサイタルの最中から、今日ののだめはいつも以上に千秋を惹きつける。周りがおざなりになるほど。
それはある種の酩酊状態だと千秋は分析する。
オケを振った後の感覚に近い、下手をすればそれよりももっと純度の高い快感。酒に酔ったなんて物の数にもならない程の。
のだめの中にもこの感覚は吹き荒れているのだろうか。
 
浮かされたように凝視していると、のだめのくるくると変わっていた顔がふとこちらを向き視線が絡まる。
途端、ぱっと花開くように笑い頬が色付くのまでが見えた気がした。今までの比で無いほどに。
自分だけに向けられるそれにうっかり見惚れているとのだめは友人らに二言三言何かを告げ、そのまま千秋の方に足を向けた。
途中のテーブルからドリンクをピックアップしてくる足取りはふわふわと軽い。それが酔いの所為なのか高揚した気分の所為なのかは千秋にはわからない。
ただわかるのは、のだめが千秋を見つけて嬉しいと思ってくれていることだけだ。
 
リサイタルの後も友人たちや音楽関係者が楽屋に押しかけてきて話をすることもできなかった。
それが素直に表に出そうで、まだ理性とか羞恥心とかは捨て去っていないからのだめの肩越しに様子を伺うとさっきまでのだめと話していた友人等も今は別の相手と話し込んでいて今自分たちに関心を向けている者はいない。
少しくらい主役を独り占めしてもきっと誰も文句は言わないだろう。
 
「なぁにをにやにやしてんデスか」
いつの間にか目の前に来ていたのだめが自分だってにやにやと笑いながら言う。
わかっているくせに、たまにのだめはこんな風に口に出したくなるようだった。
千秋は何も言わず、ただ手を伸ばして目の前に立つのだめの額を弾く。
うきゅっといつもの奇声を上げ淡く色づいた唇を尖らせるとドリンクを持っていない方の手で額を押さえてみせるのはパフォーマンスだ。
その証拠にすぐに笑顔に戻ってそのまま千秋の隣に並んで壁に背を預けた。
ふぅともらしてみせるため息は満ち足りたもので。
 
「疲れたか?」
肩辺りにあるやわらかな茶色を見下ろしながら尋ねたことを千秋は一瞬後悔した。
広く開いた胸ぐりからはなだらかに盛り上がる胸の谷間をもろに覗き込むアングルになっていたからだ。
いまさらそのくらい、とは思うがのだめの音とのだめ自身に酔った今の状態だと少々拙い状況になりかねない。
内心慌てて、しかし表面上は平静を装って視線を正面へ戻すと頬の辺りに視線を感じた。
「ダイジョブデス。久しぶりにみんなと会えて嬉しーデスカラ」
ふふっと小さな笑い声と一緒に柔らかなアルトが歌う様に答えるのが耳に心地良い。つられるように小さく息を吐く。
「そっか」
「そーデス」
呟きの応えに今度は視線だけを落とすと、ナプキンに包んだオレンジジュースを両手で持ってこくこくと飲んでいる。
その頬は乾杯で入れたアルコールのためか、またはまだリサイタルの興奮を引きずっているのか薔薇色に染まっている。それは、ベッドの上で千秋の名を呼ぶときのそれに似て・・・・
 
「お前もう酒は飲むなよ」
「ムキャッ」
のだめの姿を目に入れるだけでどうにも伸びそうな手を持て余して腕を組んだ。
ついでにその姿を目に入れなくても良いように視線をまた会場に戻してそのまま体をのだめの方に倒す。
こつん、という軽い衝撃がしてのだめと千秋の頭がぶつかってそれでも千秋はそこで止めなかった。
そのまま少し体重をかけてのだめの頭を押し込む。
「の、の、飲みまセン!むぎぎ!」
「そうか?」
「の、のだめだって、わかって、マスぅ!」
「へーえ?」
「うう、おーもーいー!」
「ハハハッ」
「よ、酔っ払い!?」
 
両足で踏ん張っているのは見なくても少しずつ沈んでいく頭でわかる。
どうにも間抜けな絵面なのもわかっている。まだリサイタルの感想も伝えていない。
けれど帰国してからこっち、のだめはリサイタルの準備、千秋はオペラの練習に加えヨーロッパでの仕事のために行ったり来たり、しかも初めてのオペラで(アマチュアだけれども)自分のことだけでいっぱいいっぱいだ。
滞在しているのは三善の家で家族と一緒だし、その間にのだめも大川に帰ったりで、つまりふたりの時間を全くといって良いほど取れていないわけで・・・・。
ただでさえ忙しくて疲れているところにのだめではないが充電切れを起こしかけていると思う。今日この後は三善の家に帰る予定だけれどホテルでも取っておけばよかったかとやや本気で思うのはそれが無理だとわかっているからだけれど。
 
触れ合っているのは頭だけでそれも子供の喧嘩じみている。それでもすぐそばにあるのだめの体からは自分と同じボディソープとシャンプーの香りがしてくらりと目眩がした。
それはのだめの体臭と混ざって甘く柔らかく千秋はこっそりと息を吸い込む。
 
充電といっては匂いを嗅ぐのだめの気持ちは、実は随分と前からわかっていた。
本当は抱きしめてそのやわらかい胸に顔をうずめたいところだけれどのだめの匂いは千秋を癒す。
匂いだけではなくてその声も顔も髪も肌も全部。
だから飲むなと言ったのはただの独占欲だ。
アルコールが入って淡く染まるデコルテなんて自分が独り占め出来ない状態で作り出されてたまるかと半ば自棄になって思うのだ。
 
「あーちくしょう」
それが何に対してかなんて千秋は自分でも知らないのに悪態を吐いた。
何がスイッチか分からずにのだめは即座に反応する。ひとつだけはっきりしていることは。
 
「千秋先輩、変デス」
「そうか?それより、名前」
「はぎゃ!?先輩やっぱり変!」
 
のだめに言われるのは甚だ心外だと思うのだけれど、それでものだめの言うとおりかなと千秋は思う。
甘えたいなら家に帰ってからそれこそ少しだけでも部屋に閉じこもってしまえばいいんだし、先に進むのだめに対して悔しかったんならこんなところでいじめていないで自分の勉強に向かえばいい。
それをしないでこうやっているのは、結局のところ千秋はのだめを構いたかったからだ。
お互い仕事だからと我慢していたけれど、リサイタルが終わってしまえばのだめはフリーだ。だから、少しだけ千秋の箍が外れかかっているのだろう。
まだ自分の仕事はこれからだというのに。
 
だけど。
いや、だからこそ。
満ち足りた顔ののだめから英気を養っておきたい、というかもう本当に認めてしまえば充電したいのだ自分は。
 
すっかり変態の森の住人になってしまった気がするが、今のだめを抱きしめたら今までになく熱くて柔らかいだろう予感がした。
サン・マロの夜や二度目のロンドン響の後、何度かあったサロンコンサート。
あの時の熱を千秋は覚えている。
そしてきっとあの時よりさらに。
 
ああ、とまらなくなるからだめだと思っているのに。
 
 
 
「のだめちゃん!」
 
 
 
組んでいた腕を解いてそのままのだめの肩に伸ばそうとした手は突然かかった声にびくりと震える。
持ったままだったワイングラスの中身が揺れて小さな水音を立てた。
内心慌てて、けれど外からはそのそぶりも見えないように頭を起こすと負荷の消えたのだめが声のした方へ向けてするりと千秋の下を抜け出した。
 
「由衣子ちゃん」
そのまま小さく手招く由衣子に向かう。一瞬だけ膨れた顔を千秋に向けていーっだ!と子供みたいな顔を見せて。
その後ろ姿から覗く耳は赤い。
普段は鈍いくせに千秋の熱を敏感に感じ取って(いや駄々漏れだっただろうから鈍くても気付いたのかもしれない)、きっとあの細いからだに籠った熱が引き出された。
 
惜しい、と思ったのは本当で、だけど助かったというのも本音だ。
幼い従妹がわかっていたとは思えないが止まれそうもなかった千秋を止めてくれたのはあの声だったのだから。
それでもやっぱり体にある熱はいかんともしがたくふぅとひとつ息を吐き出すと俯いて手の中にあったワイングラスに口をつけた。隣にあった熱を感覚だけで探そうとする自分に呆れながら。
 
「・・・・お前本当、変わったよな」
そして隣にやってきた体温は別に傍で感じたいと思う相手のものではなく、それでも触れるほどではない近くに人がいると分かる程度の自分とさして変わらない体格の相手で。
「何がだよ」
それが誰かすぐにわかったから千秋は顔も上げずにつっけんどんな受け答えをした。
いわれなくても自分が一番よくわかっているところに触れてくるのがこの男だった。
「いや、前にパリに行った時も思ったけどさ、千秋色々駄々漏れなんだよ」
「・・・うるせぇな」
だんだんと低くなる声に峰は気付いているだろうけれど頓着しない。それが彼の良いところでもある。
なんだ否定しねぇのか、やっぱりお前変わったな。とそれこそお前も変わったなと言いたくなるようないつもと違う含み笑いを漏らす。そこでやっと千秋は目線を上げて隣に立つ男の涼しげな顔を睨み付けた。
これがオケのリハーサルの最中だったりしたら縮み上がって怯えた顔をするくせに今は飄々とした表情を崩さない。いや、口許だけかすかに歪んだのを千秋は見逃さなかった。
「・・・まぁいいけどよ。こんだけ人がいるところで発情すんなよな。のだめだって困るだろうに」
そして俺は困らないけど。そんな声が聞こえてきそうな峰の声音。
視線を感じないと思っていたのは見てみぬ振りをされていたからか。本当はそんなこと知っていたけれど。
「・・・・ふん」
奥底に隠した本音をこの男は気付くだろうか。
以外と繊細で鈍いくせに変なところで鋭いのは千秋の恋人ととても良く似ている。
「まぁな、世界のNODAMEさんがどんどん走っていくのが心配なんだろうけどさ」
視線をまたワイングラスに戻す。自分とは違う立場で、恋人が世界に羽ばたくヴァイオリニスト。
 
「お前らが仲いいのは嬉しいけど・・・・真澄ちゃんなんかぶっ倒れる直前だし、免疫の無い奴らなんかどうしたらいいかわかんねぇって感じだぞ。少しは気を使えよな~」
じゃあなと手を振ってのだめたちのところへと足を向けるその背中を見るとはなしに見る。
肩越しにさっきのだめを呼んだ由衣子とのだめが真澄に向かってなにやら訴えている姿がその肩越しに目に入る。
一緒にいる従弟はそれを呆れたように見ていたし、少し離れたところには武士だとまで言われた真面目な友人がその派手な恋人となにやら話し込んでいる。
それが自分のことだと思うのは決して自意識過剰なのではなく、単に自分がやっていたことを客観視できたのとパリでいつでも晒される状態だからだ。
いつもなら恋人のほうが原因であることが多いのに。(と千秋は思っている)
そしていつもどおりに(性懲りも無く)そっぽを向いて流そうとする。
 
だから千秋は少し反応が遅れた。
自分の隣に新たな体温がやってきたのを気付くことができなかったのだ。
 
「主役のパートナーが壁の花なんて感心しないわねぇ」
「かっ・・・・ぐっ、げほっ」
ちょうどワイングラスを煽ったタイミングで声をかけられて千秋はむせた。
幸いにも残り少なかったため零れてスーツを汚すようなことはなかったがもろに気管にワインが入った千秋にしてみればたまったもんじゃない。
咳き込みながら原因となった隣の人物を睨み付けるが涙目になっている上、それが千秋より一枚も二枚も上手の人間であれば効くはずもなかった。
「あらまぁ大丈夫?」
そしてその原因となった征子は悪びれもせずむせる息子の背中を優雅な手つきで擦った。逆の手には息子と同じワイングラスが握られている。
中身はまだなみなみと入ったままで。
それがなんだか自分を馬鹿にしているようにも思えてしまって。
 
「・・・なんだよ」
上げる声にもついつい棘が混じるのはしょうがないことだと言えるだろう。
けれど征子が堪えるはずもなく。
「いいえぇ。ただ無愛想で仏頂面だった息子が本当に素直でかわいくなっちゃったことに感慨を覚えていただけよ」
その台詞に嫌な顔をして見せた千秋にふっと笑った征子の顔はからかいの色を多分に含んでいたけれど、それでその口調にも表情にも嬉しさを隠しきれてはいなかった。
この母は息子の恋人を殊の外お気に入りだから彼女のリサイタルが成功したのが嬉しいのだし、そんな彼女に息子が夢中である事実(千秋にしてみれば本当に不本意だ。とポーズをとってしまうのだが)も嬉しいのだとは容易に想像がつく。ついでにその息子で遊べることも。
そしてほぼ身内ばかりとはいえ、公の場でそのふたりのお披露目ができるのも征子の機嫌の良い理由のひとつだ。
千秋にしてみればいい迷惑で。
ついでにふたりのバックアップが三善財団だということも広める機会ということでビジネスにも絡んでいるのだが。母も叔父もそこらへんやり手なのだ。
 
「まあほどほどにしてちゃんと戻りなさいよ。あなた今日はホスト側の人間なんだから」
「・・・わかってるよ」
ぽん、と千秋の肩をひとつ叩いて征子は人だかりの方へと足を向けた。
結局千秋を呼びに来ただけだったのだろうが、余計な一言をくれていくあたり本当に食えない。
眉間に皺が寄るのを自覚した千秋はワイングラスを口に運び、それが空であることに気がついて舌打をした。
 
腕を組んで壁に寄りかかる。
視線の先では征子がのだめに声をかけるところだった。
肩に手をかけ、何事かを耳元で囁く。顔を見合わせて笑い合う。
ふたりの視線も、周りの人間の視線も自分には向いていなかったけれど、自分のことを笑っているような気がしてむっとする。
被害妄想だとわかってはいるが。いやあながちそうとも言えないかもしれないのが嫌だ。
 
そして千秋はため息をついて人の群れへと足を向けた。
ワインが呑みたいからで母に言われたからではないと内心自分に言い訳をして。
 
 
 
けれど、目聡く気づいたのだめがうれしそうな顔をするのが可愛いと思うのはもうどうしようもないので、千秋もその顔に笑みを浮かべてみせるのだ。
 
 
 
 
 
 
 
End
 





おわかりかと思いますが、締めるのが苦手です。

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ここはの/だ/め/カ/ン/タ/ー/ビ/レ、二次創作サイトです。
ちあのだメイン。
原作、出版社等など無関係です。

傾向と対策:のだめを偏愛・のだめ溺愛の千秋先輩を偏愛。

ブログタイトルの由来:茉奈の実家はオアシス大川から車で三十分なのだ。
あの道を、私は知っている。


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